仙台高等裁判所 昭和62年(ネ)22号 判決 1987年12月25日
控訴人
グランド山形リース株式会社
右代表者代表取締役
伊藤壽
右訴訟代理人弁護士
柿崎喜世樹
被控訴人
設楽龍次
被控訴人
設楽コトエ
主文
原判決中、控訴人の金員支払請求を棄却した部分を取消す。
被控訴人らは控訴人に対し、各自、金九四六万四〇〇〇円及びこれに対する昭和六一年二月二〇日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
控訴人のその余の控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
事実
控訴人は、控訴の趣旨として、「原判決を取消す。被控訴人らは控訴人に対し、各自、金九四六万四〇〇〇円及びこれに対する昭和六一年二月二〇日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。被控訴人設楽龍次は控訴人に対し、原判決添付別紙目録記載の物件を引渡せ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との、当審新請求として予備的に、「被控訴人らは控訴人に対し、各自、金六五二万四〇〇〇円及びこれに対する昭和六二年五月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被控訴人らの負担とする。」との判決及び仮執行宣言を求め、被控訴人設楽龍次は、「本件控訴及び控訴人の当審新請求を棄却する。当審訴訟費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。被控訴人設楽コトエは、当審口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したものとみなされた答弁書には「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求める旨の記載がある。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付け加えるほか、原判決事実摘示及び記録中の証拠目録の記載のとおりであるからこれを引用する。
一 控訴人の主張
1 主位的請求原因の補充
控訴人は、被控訴人龍次の作成にかかる借受証(甲第二号証)が株式会社ヤマタニ産業(以下「ヤマタニ産業」という。)を介して提出されたからこそ本件物件の引渡がなされたと信じ、同会社に対し売買代金七二〇万円を支払つたものである。したがつて、被控訴人らにおいて右借受証の記載に反して本件物件の引渡がない旨を主張し、リース料の支払を拒むことは信義則に反し許されない。
控訴人は、被控訴人ら各自に対し本件リース料の残金九四六万四〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の後である昭和六一年二月二〇日から完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を、被控訴人龍次に対しリース期間満了により所有権に基づき本件物件の引渡を求める。
2 当審請求にかかる予備的請求原因
仮に本件リース料の支払請求が認められないとしても、被控訴人らは、本件物件の引渡を受けていないにも拘らず、昭和五四年八月ころリース契約書(甲第一号証)と借受証(甲第二号証)に各署名押印して、ヤマタニ産業の代表者蜂谷久悦に対しこれを交付したことになる。そして、蜂谷が右文書を控訴人に提出したので、控訴人は、その記載に従つて被控訴人龍次が本件物件の引渡を受けたものと誤信して、ヤマタニ産業に対し売買代金七二〇万円を支払い、もつて右金額の損害を被つた。
ところで、蜂谷が前示虚偽内容の借受証を入手したならばかならずやこれを悪用し、控訴人をして本件物件の引渡がなされたと誤信して売買代金の支払をなさしめ、もつて出捐額相当の損害を控訴人に与えることは予測できるから、被控訴人らにおいては、リース物件の引渡を受けていなければ借受証を発行しないか、もしも発行するのであれば事前に控訴人に対し引渡未了の事実を通知すべき注意義務を負つている。しかるに被控訴人らは、右注意義務の履行を怠る過失により、控訴人に対し前示損害を被らせたものであるから、被控訴人らの行為は民法七〇九条に定める不法行為に該当する。
よつて、控訴人は予備的に被控訴人ら各自に対し不法行為責任に基づく損害賠償として、金七二〇万円から既払金六七万六〇〇〇円を差引いた残金六五二万四〇〇〇円及びこれに対する本件新請求提起を記載した控訴人の準備書面が被控訴人らに送達された後である昭和六二年五月一三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 控訴人の主張に対する被控訴人設楽龍次の答弁
被控訴人らが昭和五四年八月ころリース契約書(甲第一号証)及び借受証(甲第二号証)に各署名押印して蜂谷久悦に対し交付したことは認めるが、その余の事実は知らない。法律上の主張は争う。
理由
一引用にかかる原判決事実摘示請求原因1ないし3事実は当事者間に争いがない。そして、<証拠>によると、被控訴人龍次は、石材加工等の作業請負を営業する者であるが、石材切出し作業に供用するための油圧ブレーカー付バックホーを購入しようと考え、昭和五四年七月ころヤマタニ産業の販売展示場に赴いて商談し、同社代表取締役蜂谷久悦から本件物件と同型式のバックホーを示されて購入を勧められ、右機械本体にラジオ、ヒータ、フック等を装備しこれをリース契約により購入したい旨の要望を述べたこと、その後蜂谷が被控訴人ら方を訪れて、リース業者を控訴人、サプライヤーをヤマタニ産業、ユーザーを被控訴人龍次とする本件物件にかかるリース契約を締結し、同年八月中に納品も済ませたいので、手続を進めるためこれに署名捺印してもらいたい旨を述べて、所要事項を記入し日付欄のみ空白のリース契約書、借受証の各用紙を提示されたので被控訴人らはその日付を後日補充することを蜂谷に委ね、被控訴人龍次は右各書面に、被控訴人コトエはリース契約書にそれぞれ署名捺印してこれを蜂谷に交付し、同人に爾後の事務処理を託したこと、しかして蜂谷は同年八月下旬に右各文書を補充完成し(甲第一、第二号証)、第一回リース料金と保証金相当額を自ら出捐してこれらを控訴人に対し提出して来たので、そのころ控訴人は本件物件の引渡がなされたものと信じてリース契約の本旨に従つて、ヤマタニ産業に対し本件物件の売買代金七二〇万円を支払つたこと、以上の事実が認められ、被控訴人設楽龍次の供述中右認定に反する部分はにわかに措信できない。
二前示争いない事実及び認定事実に即して考えるに、ヤマタニ産業は被控訴人龍次に対し、昭和五四年七月ころ販売展示場で購入を勧めていた際には、将来のリース契約について目的物の特定を試みたり仕様上の追加注文を受けたというにすぎず、その後も本件物件の引渡がなされたものとは認められない。そして、証拠上同被控訴人が現に本件物件を占有している事実も認められないのであるから、控訴人が被控訴人龍次に対して本件物件の引渡請求権を取得する由はない。しかしながら、本件リース契約は関係者の合意をもつて有効に成立し、且つ控訴人は被控訴人龍次の発行した借受証の記載を信じて本件物件が同被控訴人により検収されたと判断し、ヤマタニ産業に対して売買代金全額を支払つた事実関係においては、同被控訴人は控訴人に対し、リース料金支払債務を免れることができないと解すべきである。けだし本件はいわゆるファイナンス・リース契約に関するものであるところ、被控訴人龍次における借受証発行の所為は客観的にはリース業者に対し売買代金支払(融資実行)を指示するという意味があるから、その指示に応じて控訴人がヤマタニ産業に対し本件物件の売買代金の支払を了した以上、これと経済的対価関係にある同被控訴人のリース料金支払債務も確定的に発生したとみるべきであつて、被控訴人らが前示リース物件引渡欠缺の瑕疵を主張して右支払債務の履行を拒むことは信義則に違背し許されないというべきであるからである。
三そうすると、控訴人が被控訴人ら各自に対し本件リース料の残金九四六万四〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の後であること記録上明らかな昭和六一年二月二〇日から完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める主位的請求は理由があるところ、原判決中右請求を棄却した部分は不当であるからこれを取消したうえ右請求を認容することとし、被控訴人龍次に対する本件物件の引渡請求は理由がなく、原判決中右請求を棄却した部分は相当であるからこの部分に対する控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を適用し、なお仮執行宣言の申立については相当でないからこれを却下して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官輪湖公寛 裁判官武田平次郎 裁判官木原幹郎)